優しくて働き者のお母さんと、魔法石の加工をしている職人気質なお父さん。そして、『お姉ちゃん、お姉ちゃん』と慕ってくれる幼い弟妹。絵に描いたような、幸せな家族。

「えっと、じゃあ作り始めようかな」

 お母さんから離れたあと、急に恥ずかしくなって顔を背ける。そそくさと調理台にりんごを持っていくと、お母さんは気付かないふりをして横に並んでくれた。

「お母さんもできることがあったら手伝うわ」

 双子はダイニングテーブルの椅子に腰かけて、大人しく手遊びをしている。リビングダイニング、みたいな立派なものじゃないけれど、台所とテーブル、暖炉が集まった小さなひと部屋は家族の憩いの場所だ。

「ありがと。じゃあ、りんごを切ってもらおうかな。いつも八等分にして食べてるけど、それをさらに五等分くらいにする感じで薄切りにしてほしいの。皮つきのまま使うから、切る前にりんごは塩でもみ洗いしてね」
「ふうん、かなり薄く切るのね」

 よし、と気合を入れて腕まくりをする。くるぶしまでの長さの綿ワンピースは、かわいいけれど日本の洋服に比べると動きづらい。

 ルワンド国は地球でいうところのヨーロッパに近い文化だ。ただ、年代が違う。歴史には詳しくないけれど、私が生きていた時代よりはかなり昔の文化だと思う。
 炊飯ジャーもガスコンロもなく、料理はかまどでするし、電気が通っていないから灯りはランプだ。

 そう考えると不便だけど、そもそも地球とは世界が違うのだろうから、比べるのはナンセンスだ。第一、魔法も魔法石も地球にはなかった。私は会ったことはないけれど、獣人やエルフも存在しているらしい。
 
 りんごのほうはお母さんに任せて、私はパンケーキの生地に取りかかった。小麦粉に卵、牛乳。いつもと違うのは、砂糖を入れるところだけ。
 ボウルに材料を入れて、泡立て器でかきまぜる。分量も、手順も、身体が覚えていて自然に動ける。

「エリー、りんごを薄切りにできたわよ」

 まるまる一個のりんごが、皮つきのまま綺麗な薄切りになっている。

「ありがとう、それじゃあ次はりんごをすりおろしてもらおうかな。こっちも、皮のままお願いね」

 その間に私はかまどに火を入れ、フライパンの準備をする。温まったフライパンにバターと砂糖を投入すると、甘くて香ばしいにおいが部屋中に漂った。

「いいにお~い!」

 双子も、椅子から身を乗り出して調理台の様子を見ている。

「エリー、砂糖がなんだか焦げているけれど、大丈夫なの?」
「うん。これは焦がしてりんごに香りづけするものなんだ。キャラメリゼっていって……」

 説明しながらりんごを炒めていく。りんごがしんなりして、表面がキャラメル色になったら完成だ。