異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました

「あります! バレンタインのチョコレートです!」
「ばれんたいん……。ちょこれーと?」

 アルトさんは不思議な呪文を聞いたときのように、眉を寄せておうむ返しをした。ミレイさんもきょとんとしている。

「はい。バレンタインというのはえっと……外国にある、女性から男性にスイーツを渡して恋心を打ち明けるというイベントなんです」
「外国にはそんなものがあるのか」

 実際には外国じゃなくて異世界なんだけど、まあ細かいことはいいだろう。

「それで、チョコレートというのはカカオ豆を加工した甘くてほろ苦いスイーツなんですけど……。この国にカカオ豆はありますか?」
「王宮魔法使いに聞いたことがあるな。なんでも、カカオ豆の粉末を呪術や薬の材料にしているとか……。そんな物騒なものをスイーツにして大丈夫なのか?」
「大丈夫です。カカオには血流をよくしたり気分を高揚させる効果があるので、媚薬や薬として使われていたこともあるんですよ。……その、外国でも」

 私の説明に、アルトさんは「ほほう」と息を吐いた。

「なるほど。媚薬にもなるだなんて、告白にはおあつらえむきのスイーツだな」
「そ、そんな。媚薬だなんてっ」

 耳まで真っ赤にしたミレイさんが、顔を手で覆う。

「大丈夫です、実際にはそんな、惚れ薬みたいな作用はないですから! アルトさんも、変なこと言わないでくださいっ」
「す、すまん」

 驚きながら謝罪したアルトさんが、「庶民に怒られたのは初めてだ。だいたい、最初に言い出したのはお前じゃないか」 とかなんとかぶつぶつ言っている。王子に対する対応じゃなかったかもしれないけれど、言ってしまったものは仕方ない。幸い、怒っている様子ではないので放っておこう。

「ミレイさん。バレンタインは、告白する勇気を出せない女の子のためのイベントなんですよ」
「勇気を……?」
「はい。直接『好き』と言えなくてもチョコレートを渡すだけで相手にわかってもらえるんです。そんな女の子は小さく名前だけ書いて 、チョコレートを下駄箱……じゃなくてポストに入れたりもするんですよ」
「そうなの……。秘めやかな恋にも想いを伝える機会をくれる、素敵なイベントなのね……」

 指を軽く組んで、尊い眼差しでつぶやくミレイさん。前世の私にとっては、バレンタインは『いろんなチョコレートが売り出される楽しいイベント』でしかなかったけれど、こんなふうに考えられるのは素敵だと思った。

 自分には縁がなかったけれど、今こんなふうにミレイさんの役に立てるのだから、前世の日本にバレンタインがあってよかった。