異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました

 * * *

 頬をバラ色に染めたミレイさんが、そわそわした様子で店にやって来たのは、次の日の開店すぐのこと。

「え、エリーさん。昨日私を助けてくださった方は、なんという名前なの? この店の用心棒ということは、ここにやってくるの?」

 ミレイさんはいつも早い時間に来るから、騎士団の全体訓練が終わってから午後に来るベイルさんと鉢合わせしたことがなかったみたいだ。

「王宮騎士団副団長の、ベイルさんです。はい、ほとんど毎日様子を見に来てくださっていますよ」
「そ、そうなの……」

 ぴくんと肩を震わせたあと、窓の外に視線を向ける。

「いつも午後なので、まだいらっしゃらないと思いますよ」
「そ、そうなのね」
「なにかベイルさんに用があるんですか?」
「い、いえ、そういうわけじゃないんだけど……」

 ミレイさんは、顔全体をカアッと真っ赤にしてうつむいた。
 私が恋愛に縁のないにぶい女子でも、これはわかる。ミレイさんは、ベイルさんに恋をしたんだ――。

 自分がピンチのときに颯爽と現れた騎士さまが助けてくれるなんて、小説みたいな体験をしたんだから無理もない。

「あ、あの。エリーさん。相談に乗ってもらっていいかしら。男性にお礼をあげるとしたら、どんなスイーツがいいのかしら……?」
「ベイルさんだったら、どんなスイーツでも喜んでくれると思いますけど」

 そう返すと、ミレイさんはあわあわした様子で口元に手を当てた。

「あ、あらっ? わ、私、相手がベイルさんだって口に出していたかしら?」
「あっ、ごめんなさい。勝手に昨日のお礼だと思ったんですけど、違いました?」
「ち、違わないわ……」

 目をうるませて縮こまるミレイさんが、かわいくて胸がむずむずする。お嬢さまが恋をすると、こんなふうになるんだなぁ、日本人じゃないけれど、大和撫子ってこういう人を言うんだろうなあと、頭の遠いところで考える。

「この間、生クリームに感動していらっしゃったので、新作のシュークリームはどうでしょう。喜んでもらえると思いますよ」
「じゃ、じゃあそちらをいただけるかしら……。今日の午後また来てみるわ」
「はい、お待ちしております」

 その日の午後、ベイルさんにシュークリームを渡して何度も何度もお礼を伝えるミレイさんと、照れくさそうに頭をかくベイルさんを眺めながら、『一足先に春が来たなあ』なんて思っていたのだけれど……。