「ベイルと話し合ったんだ。どうすれば、もっと国民の間にスイーツを流通させられるかとな。レシピを配るのもひとつの手だが、専門店を開くのが一番手っ取り場合という結論に達した」
「は、はあ」
「で、店主だ。王宮料理人に頼むわけにいかないし、ほかにスイーツを作れる料理人といったらお前しかいない。そもそも、この国でのスイーツの第一人者はお前だ。どう考えても、お前に店を任せるのが適任だと考えた」
「で、でも。私はまだ十六歳ですし、店主なんて……。それに家の手伝いもしなくちゃいけないし」

 急にお店なんて言われても、どうしたらいいかわからない。そもそも私に、店主なんて務まるの?

「そんなもの、お金が入るようになれば 手伝いを雇えばいいだろう。歳も関係ない。王族が認めているのだし、お前は幼い少女にはない貫禄があるからな」
「俺も、用心棒として店に立つから安心して。スタッフが足りないようなら集めるし」

 アルトさんとベイルさん両方が、弱気になる私の逃げ場をつぶしていく。

「材料とかは……」
「全部俺が手配する。砂糖も、果物も、小麦粉も、好きなだけ使えるぞ。まあ、運用費のかわりだな。ちなみにベイルの厚意で、店舗代もタダだぞ」
「そ、それって、王室御用達の店ってことなんじゃ」

 父に聞いたことがあるが、王室に認められた店は、店に紋章を掲げることができる。毎年国から運用費を支給してもらえるし、職人にとっては最大級に名誉なことなのだ。

「ごちゃごちゃうるさいな。お前は、自由にスイーツを作ってみたくないのか?」
「……それは」

 前世で亡くなるときに思ったこと。好きな材料を好きなだけ使って、お菓子を使ってみたかったって。

 転生して、『パティシエ』って呼んでもらえて、自分の作ったお菓子でみんなを喜ばせることができたけれど、前世の夢はまだ半分しか叶えていない。

 だってパティシエには、自分のお店があるものでしょう?

「――作りたいです! 私、お店をやってみたい!」

 頬を紅潮させながら叫んだ私に、ベイルさんは優しげな、アルトさんはしてやったりと言いたげな笑みを見せた。

「決まりだ。内装や材料で必要なものは従者をよこすから、そいつに伝えろ」
「あとは店の名前だね。これは、エリーちゃんが好きなものをつけるといいよ」

 決心したばかりの私の横で、アルトさんとベイルさんが着々と段取りをつけていく。

「これから開店準備だ。わが国初のスイーツ専門店、来月にはオープンさせるぞ」
「……はい!」

 これからこの店で、どんなスイーツ、どんなお客さまと出会えるのだろう。
 ぶるっと身体が震えたけれど、怖いからじゃない。これは、武者震いだ。

 エリーゼ・ホワイト、十六プラス二十三歳。転生した異世界で、パティシエールを開くことになりました。