異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました

「実はね、王宮騎士団も長年勤めていた人たちが高齢になって、今年大規模入れ替えが行われたんだよね。高齢騎士には退職してもらって、新しく試験を突破した若い騎士が何人か入ってきた」
「そうなんですか」

 やたら身体が大きくてマッチョな、若い騎士が何人かいた。あの人たちのことだろう。

「その若い騎士が問題でね……。血の気が多くて、喧嘩っぱやくて、いつも新人同士で喧嘩をしている。これではいけない、と思って訓練のあとに懇親会を開いたりしたんだけど、そこでも取っ組み合いの喧嘩になってしまってね」

 ベイルさんがため息をついたので、私もその現場を想像して眉をひそめた。
 あの訓練の迫力そのままで喧嘩をされたら、周りはたまったものじゃないだろう。

「懇親会は、どこで開いたんですか?」
「城下町の酒場だよ」

 それはいけない。もともと血の気が多い人にお酒を飲ませたら、ヒートアップして余計な悪口まで言ってしまうだろう。お酒の席での失敗は、仲のいい人同士でもよくあることだ。前世で社会人になってからの飲み会で、それはじゅうぶんに実感してきた。

「こんなに仲が悪い状態だと、有事の際にうまく連携が取れないだろう? 常々それを殿下に相談していたんだけど、騎士同士の親交を深めるのにスイーツが使えるんじゃないかって言われてね」
「スイーツで、親交……」
「できるか? エリー。荷が重ければ断ってもいいんだぞ」

 薄い笑みを浮かべて、アルトさんが試すように私を見る。

「できます。むしろそれは、スイーツにしかできないことです」

 血の気の多い男たちの気持ちを解きほぐす。お酒にはできないことが、スイーツならできる。

「なにか俺にも手伝えることはあるかな」
「では、これから言うものを用意していただけますか」

 騎士団の稽古場には、美しい中庭があった。あれを活かさない手はないだろう。
 私がひとつひとつ説明した品物を、ベイルさんは真剣な顔で頷きながら紙に書きつけている。
 よし、これらのものがあれば、あとはスイーツだけ持っていけば大丈夫だろう。騎士団宿舎の紅茶の味は保証済みだし。

「エリー、準備にはどれくらいかかる?」
「一日あれば大丈夫です。明日の午後三時、スイーツを用意して稽古場にうかがいます」
「わかった。その時間は休憩にして、エリーちゃんを待っているよ」

 午後三時。前世の子ども時代に、いちばん好きだった時間。
 その頃の記憶を思い出して、今の私もワクワクしてきた。