【番外編5/3UP】その王子、はらぺこ悪魔につき。

優しく髪を撫でられると、不思議と心が落ち着いてくる。


あんなに怖くなっていたのに。


「戻りたい?」

「え?」

「セロの秘密を知る前に」


あの悪魔にされたヒドいことを忘れられるなら、忘れてしまいたい。


キスがなかったことにできるなら、したい。


「ごめんなさいね。こんなことを聞いて『戻りたい』って返事されても、あたしはなにもしてあげられないし。過去に戻るなんてゲームの中の世界みたいなこと、現実ではできないのだけれど」


平和に過ごせたら、それは幸せなことだ。


「ただ。危険ととなり合わせで生きているっていうのは。誰しもがそうなんじゃないかしら」

「……誰しもが?」

「帰り道、事故に合ったり。夜道でさらわれてしまったり。駅で階段をふみはずしたり。突然、心臓が止まったり――この世に生まれる前に命が尽きてしまったり。そんな可能性の一つ一つがけっして高くないにしろ、ゼロではないでしょう? そういうことって。なんの前触れもなく起こり得るのよ」