みどりの父は埼玉のはずれで板金業を営んでいる。

みどりが父を疎むようになったのはいつ頃からだろう。

いつも作業服を着て、日焼けしている父。夜は職人仲間を家に呼んでお酒を飲む。酔うと大きな声で何度も同じ話しを繰り返す。
 
小さな頃、みどりは父に懐いていた。父は子煩悩だったから。みどりや弟とよく遊んでくれた。

家で仕事をする時は、作業場の隅で端材にペンキを塗らせてくれた。
 
「みどりは器用だな。お父さんの後を継ぐか。」

ペンキを塗るみどりに、父は嬉しそうに声をかけた。

ただ父の愛情を信じていた頃。父が好きで、いつも父の側にいたのに。