「子供達、元気か?」

みどりの負担を考慮して東京で落ち合った二人。

都心のティールームで向かい合うと、孝明は言った。
 
「うん元気よ。大翔の足も大分良くなったし。」

みどりは寂しそうに微笑んで、
 
「パパ、いつ帰ってくるのって聞かれて。困るわ。」と俯いた。
 
「もう少し大きくなればわかるだろう。その時は、みどりの都合が良いように話せばいいよ。」

孝明も寂しそうに笑い、
 
「俺が浮気して別れたとかね。」と続けた。
 
「そんな事、言えないわ。」

目を落としたまま答えるみどりに、
 
「それでいいんだ。離れた人間を恨む方がうまくいくんだよ。」と言った。

どこまでも子供思いで優しい孝明に、みどりは涙が滲んでしまう。
 
「社宅の人には、みどりのお母さんが倒れて埼玉に帰ることになったって話したから。」

孝明は銀行に残るのだから、いずれ離婚したことはわかってしまうだろう。
 
「ごめんなさい。」

あの日以来、何度も言った言葉を、またみどりは言う。
 
「落ち着いたら昼間、荷物を取りに来るといい。ご近所にも挨拶してくれよ。」

孝明の思いやりに、みどりは涙を溢れさせる。

ハンカチで顔を覆うみどりに、
 
「泣くなよ。俺がみどりを許せなくて。ごめんな。」

孝明は優しい微笑みでみどりを見つめた。

大きく首を振るみどりに、
 
「でも必ず無理がくると思うんだ。知ってしまったから。子供達が小さいうちで良かったよ。」

と言って孝明も下を向いた。