「俺はいつも後手後手だな。」

休日。

先輩は私の家に来て勉強を教えてくれた。

弟たちはまだ合宿でいない。

「...何がですか?」

「お前、この範囲は前に誰かさんに教えてもらったんじゃないのか。」

「そうですよー。
でも、模試だと難易度的に、一筋縄じゃいかないわけじゃないですか。」

「確かに...この点数はひどいな。」

ひどいですか...。

確かに、半分もいってないけど。

「これを全部解き直さなきゃいけないんですよ。私じゃ絶対無理です。」

「ネットで模範解答調べれば出てくるけど。」

「...そういうのは、だめです。ずるいです。」

「もう少しずる賢く生きた方がいいぞ。」

「じゃあ、先輩はズルしてるんですか?」

「うん。だってその方が楽だから。」

「楽だからって...。」

そんなに自信たっぷりにズルする人が自分の彼氏とは...。

「そもそもこの担当教諭は分かってないな。
模範解答の重要さを。」

「そんなにズルすることが重要なんですか。」

「...。
そもそもお前みたいにちっさくてかたい頭が、模範解答以上のものを導き出せるわけないだろ。足元にも及ばない。」

「だからこうして先輩に頼んでるんじゃないですか。先輩なら、模範解答以上のことが頭に入ってるでしょ?」

「そうだな。
成熟した脳は紙面とは違うわけだから。」

「そうですかー。(棒)」

「まず、お前の場合は、紙面で解法、解説を見たほうがいいな。」

と、言って先輩はスマホをこちらに差し出した。

「先輩、いきなり楽しようとしてません?」

「これで済めば俺は楽だけどな。
そもそもこれ読んで全部納得できるか?」

「うーん...。
数学なので、数式が多くて...何だか混乱しちゃいますよね。」

「基礎が頭に入ってるならそもそも混乱しない。
そういうことだったのか、自分の解き方にはなかったな、って瞬時に分からなきゃだめ。」

「そんなの...今日中には無理ですよ。」

「そうかな。この範囲だったら1日で分かるようになるだろ。」

「先輩、私の馬鹿さをなめないほうがいいですよ?」

「俺の頭のよさもなめてもらっちゃ困るな。お前がどこでつまずいてるかぐらい、こっちにはお見通しなんだぞ。」

「じゃあ、今日中にこれ全部私が自力で解けなかったらどうします?」

「もし、お前がそこまで馬鹿なら、何か言うことひとつきいてやるよ。」

「ほうほう...言いましたね。」

「その代わり全力でやれよ?
そうじゃなきゃ平等じゃない。」

「もちろんです。先輩も無理に詰め込むのはやめてくださいよ?」

こうして、休日の昼過ぎから、わけのわからない競争がはじまったのであった...。