放課後。

先輩のところへ行くと、

「結野、疲れた。」

ため息まじりにそう話してきた。

「ああ...東條さんですか?」

「そう。
席近いから授業中ずっとちょっかい出してきて...。」

「大丈夫ですか...?」

「大丈夫...ともいえない気がする。
つきあってやるまでずっとうるさいし。」

「大変ですね...。」

「まあ、悪い奴じゃないっていうのは分かるけど。なんか...ぬかるみにハマっていくみたいで...。」

「あまり我慢しないでくださいね。」

「んー...。」

先輩は、そっと、手を繋いできた。

「先輩...相当こたえちゃったんですね...。」

「誰も見てないし、少しくらいいいだろ...。」

「...いいですよ。先輩、今日もよく頑張りましたね。
よしよし。」

夕日に照らされた先輩が、また優しく微笑んだ。

やっぱり...こういう表情...。

「先輩...お母さんみたいです。」

「え?」

「私のお母さんと、笑い方が似ている気がして...。」

「...。」

「すみません、変なこと言っちゃって。」

「いいよ、別に。」

先輩が優しく見つめてくれるから、自然とまた口が開く。

「...小学校ぐらいまで、学校が終わったらよく毎日のようにお見舞いに行ってました。
そのときにお母さんも、そっと手を握ってくれて、笑ってくれたんです。
私を安心させようとして、辛いことも、我慢していてくれたんだと思います。」

「うん...。」

「前に先輩に拾ってもらったこのぬいぐるみのストラップも、小さい頃に、遊園地に遊びに行けたときにプレゼントしてもらったものなんです。もうこんなにボロボロですけど、私にとってはこれが思い出のひとつなんです。」

「そうか...。
あのときは悪かったな。」

「いえ...。」

先輩は、繋いだ手にぎゅっと力を入れた。

さっきまで、少しひんやりしてたけど、ちょっとずつあったかくなってくる。

あのときも...母のひんやりしてた手を、温めようと必死に握ったっけ。

だから今私も、先輩の手を温めてあげよう。

先輩がもし、辛いことがあっても、私がずっとそばにいて、寄り添っていてあげよう。

何気ない日々の1ページだけど、私はこのとき、そう決心した。