直斗さんの運転で、お父様が入院している総合病院に向かう。

「ふたりとも詮索してくるタイプじゃないし、なにしろ親父は病人だから」
わたしの気持ちをほぐそうとしてくれる直斗さんの言葉はありがたいけど、近づくにつれて緊張は高まるばかりだ。

一緒に暮らすようになって、十日あまり。
彼が早く帰ってこられる日は夕食をともにして、週末に一度ふたりで出かけて、いろいろお互いの話をしてきた。
会社のこと、子どもの頃のこと、好きな音楽や本や映画の話。

そして、幾度か唇を重ねた。

それだけといえばそれだけで、今日を乗り切れるだろうか。

高校の文化祭で、英語劇を演じたときの緊張感を思い出す。
詰め込んだ英語の台詞をトチらないか、立ち振る舞いを間違えないか、舞台の袖で全身がじんじんと張りつめていたものだっけ。

どうかうまく演じられますように、となにに向かってかわたしは祈った。