わたしに視線を向けて、彼がわずかに眉をひそめる。
なにか気に入らないのかな、足が止まってしまう。

「花乃、わざわざ服買ったの?」
あきらかに新品のワンピースに目を走らせる。

「あ、うん」
意味もなくプリーツを撫でる。

「そんなに気を使わなくてよかったのに」

今日使わなくていつ使うんだろう、という心境だ。

「真面目だな、花乃は」言いながら直斗さんが近づいてくる。

彼の腕の中に抱き寄せられる。
「巻き込んで、ごめん」

「直斗さん…」
そんな殊勝な台詞は似合わない、と思う。

あごに手をかけられる。
わたしの限られた経験だけど、直斗さんはキスがうまい、と思う。
巧みに唇を開けられ舌がからむと、じんと頭の芯がしびれてゆく。

最近、リップの選び方が変わってきた。なるべく落ちにくいものを付けるようにしている。
前までは、自分に似合うか顔が明るく見えるかがすべてだった。
食べたり飲んだりしゃべったりでリップが落ちても塗りなおせばいいと思っていたし、鏡をのぞきこんで塗り直す時間も好きだった。

キスをする相手がいる生活は、こうしてメイクまで変えてゆく。