「わぁ、きれい!」
店内に一歩足を踏み入れると、シンプルにその言葉が口からこぼれた。
あふれるバラの花々の豊かな色彩と芳香に圧倒される。

「好きな花を選んでいいよ」と直斗さんに促されるけど、どれも素敵で目移りしてしまう。
鮮やかで繊細な花弁の色、そして一輪一輪の形が大きくて美しいこと。

「見ているうちに自然と好きなものに目が留まるようになりますよ」とお店のひとにアドバイスされて、グラデーションの花束を作ってもらった。淡いクリーム色とピンク色を取り合わせた花束を手にすると、心まで華やいだ。

花束を後部座席に置いて彼が車を発進させる。

あ、と思う。
「車内がすっかりバラの香りですね」
なんともかぐわしい。

「天然のアロマだな」
と直斗さん。

わたしとバラを乗せて、次に直斗さんが向かったのは目黒の住宅街にあるパン屋だった。
直斗さんによると、ドイツパンのお店だという。