「色が鮮やかで生命力が強いのが特長らしい。前にイベント会場に飾られてたのに目を引かれて、その店を知ったんだ。それからときどき行くようになった」

「花が好きなんですか?」
部屋に花を飾る男性も素敵だな。

「やっぱり目に触れると和むな。ヨーロッパではどこの家庭でも部屋に花を飾るんだ。市場が立つ日があって、パリとチューリッヒにいた頃はよくお使いに行ってた。日本は花が高いって、お袋はたまにぼやいてる」

「わたしの母も花が好きで、フラワーアレンジメントを習ったりしていて。だからわたしの名前を花乃にしたんです」
レベルは違えど共通の話題らしきものがあって嬉しくなる反面、パリ、チューリッヒ、そしてイタリア留学と、直斗さんの海外経験の豊富さに改めて驚嘆の念がわく。

「美しいものが身近にあると、心が豊かになる」

そう口にする直斗さんは、やっぱりデザイナーなんだと思う。

「だから花乃にそばにいてほしい」

それはほんの短いつぶやき。車のエンジン音にまぎれそうなささやかな声は、確かにわたしの鼓膜を揺らした。
ぎゅっと、胸が掴まれて。痛いくらいに弾んで。

お願いだから、と何も言えないまま思う。
勘違いなんかさせないでほしい。