【完結】その口止め料は高すぎますっ



男性とふたりで出かけるなんてずいぶん久しぶりで、土曜の朝のメイクには頭を悩ませた。
いかにもなピンクメイクは安易だし、それにわたしたちは本当の恋人同士じゃない。

だからほんのり甘めメイクを目指すことにした。
眉はいつもより太く平行に。ピンクみのあるやわらかいブラウンのパウダーで仕上げて。まつ毛は上げずにロングラッシュマスカラを丁寧に塗った。
リキッドアイシャドウで繊細な艶をまぶたに乗せて、透明感が出るラベンダーチークを頬に刷いて完成だ。

「すみません、お待たせしました」
慌ただしく洗面所を出る。

「全然。花乃、メイク上手だけど早いな」
直斗さんがソファから腰を上げる。

「なるべく時短でやってます」彼に褒められることに、なかなか慣れない。
「引越しの手配までやってもらって、どうもすみません」

「手配って、電話一本だよ」

軽く言うけど、電話一本ですべての手配をしてくれる業者さんが、お手頃価格とは思えない。