【完結】その口止め料は高すぎますっ

「おかえり」
廊下の奥から、直斗さんが姿をみせた。ワイシャツ姿のままだ。

「ただいま、すみません遅くなって」
門限を気にしていた学生時代を思い出した。

「俺も今帰ってきたところだから」
わたしの顔に目を留めて「リップとチークの色が合ってて可愛いな」とつぶやく。

「ありがとうございます」
どうして分かるんだろう。わたしがいちばん頑張っていることが。

花乃、と彼の腕の中に抱き寄せられた。
「礼はいらない。代わりに欲しいものがある」

直斗さん———
彼とのキスは嫌じゃない。回を重ねるごとに深くなってゆくキスに、愚かなわたしは溺れそうになる。
そんなに優しくしないで、そんなにわたしを搦めとらないで。

また同じ恋の痛手を味わったら、立ち直る自信がないから。