そう言われて、はいそうですかと身を任せられるわけもなく、棒のように突っ立っている。

「そういえば聞くのを忘れてた」
小原さんがふと気づいたように体を離すと、わたしの肩に手を置いて尋ねる。
「牧瀬さん、いま付き合っているひと、いないの?」

「いたらこんな話引き受けません」
むくれた子どもみたいな表情をしていることだろう。

「お互い様だな」小原さんは自嘲気味に顔をしかめる。
「コスメに少し嫉妬した。俺といて初めて、牧瀬さんが嬉しそうな顔をしたから」

彼の口から漏れた「嫉妬」という言葉に驚きつつ、気を悪くさせてしまったことに申し訳なさも覚える。
「コスメも素敵だけど、それ以上に小原さんのデッサンが素晴らしくて見とれてしまいました」

彼の率直な言葉に、わたしも素直に感じたことを口にすることができた。