11時を回った頃、わたしのデスクの内線が鳴った。

表示された番号を見て、心臓が跳ねあがる。5から始まる番号は5階、すなわちデザイン部からの電話だ。
放置するわけにはいかず、受話器を取り上げる。

「はい、牧瀬です」

『デザイン部の小原です』

ずん、と胸に鉛の塊が落ちた。
「お、お疲れさまです…」

『お疲れさまです。牧瀬さん週末も働いてましたからね』

いきなり急所を直撃されてなにも言えずにいると、『今日ランチでも一緒にどうですか』という彼の言葉。

「ランチですか」
わたしの声はひどくこわばっている。

『ときどき行くイタリアンの店があるんです』

問題はお店じゃない気がするけど、わたしは拒める立場ではなかった。
そのまま当然のように、12時に一階のエントランスで待ち合わせることが彼によって決められていた。