そして何より、バックステージでの彼のあの言動。
思い出したくなくても、思い出さないわけにはいかないし、どう考えても意図がさっぱりわからなかった。

『口止め料』って、なんでわたしにキスしたんだろう———?

夢であってくれれば、そんなことを思いながら出社した。

こんな日のメイクは、冒険しない定番に限る。目元はベージュのアイシャドウで、アイラインもブラウンにした。
リップとチークはコーラルピンクでまとめて仕上げる。

落ち着いていつも通り、と自分に言い聞かせてデスクについた。

あれはきっと、小原さんのいたずら心、気まぐれだ。だってあの、小原さんだよ?
わたしなんか相手にするわけないし。きっとこのまま何ごともなく…そんな淡い期待はあっさり砕かれることになった。