「仕上げにリップ塗りまーす」
本日のヘアメイク兼新婦側親族でもある香帆ちゃんがはずんだ声をあげる。

「ようやく仕上げか〜、着付けからここまで長かった」
ふう、と一息つく。

「いやいや花乃、今日はこれからが本番なんだから。でも今回は使うリップが決まってたから、メイクのイメージがしやすくて助かったよ」
言いながら香帆ちゃんが筆にとっているのは、直斗さんがプロポーズのときに贈ってくれたリップだ。
丁寧にわたしのくちびるに乗せていく。

「うーん、いい色。ほんとに綺麗だよ、花乃」
香帆ちゃんが手をとめて、満足そうにうなずく。

「ありがとう」
自然と笑みがあふれてくる。

幸せだ。早く会いたいと思う。お父さん、お母さん、親戚や友達のみんな、そして———

コンコン、と扉をノックする音。
「入っていい?」

王子様がお待ちかねだよ、と香帆ちゃんが笑う。

「どうぞ」
わたしの声もはずんでいる。

扉を開けて直斗さんが姿を見せる。今日、わたしたちは家族になる。


【完】