「あの、これ…」
戸惑って箱と直斗さんに交互に視線を向ける。

開けてみて、といたずらっぽい目をして彼が言う。

はやる鼓動をなだめながら、そっとリボンをほどく。
ビロード張りの箱の中に小さな楕円形のケースが収められていた。金属地に表面は空色に小花の散った愛らしい柄になっている。
「リップケース、ですか?」

「その通り」

「使うのがもったいなくなるくらい綺麗」
ため息まじりに口にする。

「裏も見てみて」

促されて手にとって返すと、流麗な字体でアルファベットが刻印されていた。なんて彫ってあるんだろう…m 、a、…

『marry me, Hanano』
「結婚しよう、花乃」

頭の中でその意味を理解するのと、直斗さんの言葉が重なった。

「…はい」いつも涙声になる自分の涙腺のゆるさに呆れてしまう。
「どうしてこんな、わたしが好きなものが分かるんですか」

どうしてって、と隣で小さく笑いをもらす。
「好きなひとに喜んで欲しいから」