「な、内密にしてください。あとでわけを…」
パニック状態で口走る。

振りほどこうとした腕が、さらに強い力で掴まれる。

「じゃあ、口止め料」
顔を寄せてそのささやきを耳に注がれ、呼吸を忘れた。

くいと腕を引かれて、引き込まれたのは資材の陰になった小さなスペース。
自分の背で人の視線をふさいで、彼の手がわたしのあごをすくい上げる。

「小原さっ…」
抵抗する間もなく、唇が重なった。

「ん…っ」
両手に商品を載せたトレイを持っているわたしには、なすすべもない。
こんなときでも、商品を放り出すことはできなかった。

そう長い間ではなかった、と思う。
唇をおおう熱がふと離れ、身体が解放される。

「牧瀬さん、また」
また、という彼の台詞にこれが終わりではないと思い知らされる。
遠ざかってゆく小原さんの後ろ姿を呆然と見送ることしかできなかった。