「そんなに甘えられません。あなただって忙しいんだから。こうして便利なサービスもあることだし。とはいっても集荷場所までは運ばないといけないけどね」
ちらと両脇のスーツケースに視線を落とす。

「あの、よかったら手伝います」
ひとりで二つのスーツケースを運ぶのは大変そうだ。

「あらじゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしら」
言いながらひとつをわたしのほうにさりげなく押し出す。

俺も持つよ、と直斗さんが手を伸ばすのをお母様は手を振ってさえぎった。

「お父さんのところに先に行ってあげて。どうもね、この先家をバリアフリーにすることを考えているみたいで。あなたに色々相談したいんですって」

幅広い領域でデザイナーという肩書きで活躍している直斗さんだけど、そもそもは一級建築士の資格を持つ建築家だ。そういった相談ならお手の物だろう。

というわけで直斗さんは一足先にお父様の病室に向かい、わたしはお母様とスーツケースをひとつずつ引いてまたエレベーターに乗り込んだ。