「婚約者役の話をもちかけたのは、どちらかというと口実。花乃を捕まえるチャンスを逃したくなかったんだ」

いつものように直斗さんの運転で会社に向かう車内で、打ち明けるようにそう話してくれた。

彼らしいな、と思う。
プライドが高くてちょっぴりわがままで。そしてとびきり甘く優しい、わたしの恋人。
そして———

「だから、ふりじゃなくて、本当の婚約者になってほしい」

直斗さんの言葉にわたしは素直に「はい、喜んで」と答えることができた。語尾は早くもじわっとにじんでしまった。