好きです、先生。

時刻は夜7時。

大抵の患者が夕飯を食べ終わり、看護師や他の患者と話をしていたり、テレビを見ていたりと、それぞれ色々なことをしている。

俺の担当川口さんは入院患者の中で、1人だけ若いということもあり、個室に入っていた。

一人で寂しいのではないかと思ったが、それなりに楽しく入院生活を送っているようで、俺は安心している。

「今日は何教える?」

キャラメルマキアートを存分に味わった彼女に俺は問いかけた。

「……そうだな〜。私理科が苦手なので‪、理科お願いします。」

「了解。得意分野だ。」


「ATPが〜……………」

「あぁ〜!そうかそれでこれは……」

「ヌクレオチドが〜…………」

「…なるほど。っていうことは、これはこれで…」

苦手だと言った割にはとても出来のいい彼女。

きっと偏差値の高い学校に通ってるんだろう。

「もう8時だし、ここまでにするか。」

「……そうですね、遅くまで付き合わせてしまってごめんなさい。」

入院着姿でぺこりと頭をさげる彼女。

今どきの高校生では珍しいほど礼儀正しかった。

「大丈夫だって。家近いから。
ていうか、俺がタメ口で話してること不快じゃない?」

彼女に嫌な思いはさせたくなくて、言ってみた言葉。

「全然大丈夫です。むしろタメ口の方が、リラックスして話せます。」
少しはにかんだ彼女はとても可愛かった。

やはり俺は、彼女に特別な感情を抱いているのかもしれない、とこの時改めて思った。