好きです、先生。

〜side慧〜

遂に、雛が退院した。
まるで心に穴が空いたようだった。

また変わり映えのしない日常に戻るかと思うと正直うんざりだった。

今日は早めに仕事を切り上げて、帰りの用意を済ませ、職員用玄関へ急いだ。

「……先生!」

一瞬空耳かと思った。

雛のことを想うあまり、遂に幻聴まで聞こえ始めたかと思った。
だけど、違った。

玄関の前には雛がいた。

「…川口さん。」

「…先生、手紙読みました。」

まさか、あの手紙を渡した後会うなんて予想していなかったから、急に恥ずかしさが込み上げ出てきた。

「…やっぱり気持ち悪かったよな、捨てといて。」

「…そんなこと、するわけないじゃないですか!」

珍しく声を荒らげて雛は反論する。

「…私も、先生のこと好きでした。
でも、私なんて高校生だし…患者だし…気持ち伝えたら迷惑かと思って伝えませんでした。」

嘘だろ、雛が俺の事を好き?

「………俺も。医者が患者にこんな感情を抱くなんていけないってことは分かってた。それに雛は高校生だしな。でも本当に好きになっちゃったんだよ。」

「…嬉しいです。先生…。」

「…こんなおじさんで良ければ、俺と付き合ってくれませんか?」

ダメ元で、雛にそうお願いしてみる。断られたって仕方ない。相手は26歳のおじさんだ。

「…はいっ!藤井先生!」

彼女はそう言うと俺に抱きついてきた。ふと彼女の首元を見ると、さっきプレゼントしたネックレスが首元で光っている。

「…好きだよ、雛。」

「…私も。」

「ところで、なんで先生突然雛呼びなんですか?嬉しいですけど…」

「…嘘だ。いつから?自覚ねぇんだけど。」
きっと脳内で雛って呼びすぎたんだろうな。
我ながら気持ち悪いし、恥ずかしい。

「え、知らず知らずのうちに私のこと、雛って呼んでたんですか!?」

「たぶん。それと俺彼氏なんだから敬語じゃなくていいよ。それに先生呼びもおかしいだろ」

「確かにそっか!じゃあこれからは慧って呼んじゃおうっかな〜?」

そう無邪気に笑う彼女が愛しくて、俺は彼女を抱き寄せてキスをした。

職員玄関で大胆なことをしてしまったとは思うけど、人がいなかったからよしとしよう。






その後、雛は大学で看護学を専攻し、俺と同じ病院で働くことになったことも、俺と雛が結婚することになったことも…この時の俺たちは知らない。