はぁ……
 思わず逃げてきちゃった。

 3つのドリンクが乗ったトレーを持ちながら、わたしはため息をついた。
 
 わたしが席を外してからそろそろ30分が経つ。
 そろそろ戻らないと不自然になっちゃう……

「あれ……」


 建物の陰から様子をうかがってみる。
 サヤカは既にいなくなっていた。



 もう話はついたの……?


「ちょっと」



 背後から呼び止められて思わず振り返ると、サヤカの姿が。

「勘違いしないでよね、あたしから霞のこと振ったんだから。財産目当てだったことも、浮気もぜーんぶお見通しなんて……」



 財産目当て……? 浮気? なにそれ……
 そんな事して今更霞さんに近づいてたってこと……?


 この女……こいつは一体どこまで霞さんを馬鹿にすれば……っ!




「ふっざけんな……霞さんはわたしの大切な人なの! 触らないで!」




 怒りが頂点に達したわたしは、サヤカの胸ぐらに掴みかかる。
 

 わたしの大切な人なのに、初めてできた大好きな大好きな人……
 馬鹿にしないで、そんな軽く見ないで。


「……なにムキになってんの?」
「誰に何と言われようが、例え霞さんが許そうが絶対わたしはあんたを許さない」



 胸ぐらを掴んでいるわたしの手に、一滴の雫が降ってきた。


 え……涙……?


「ばっかじゃないの?! あたしはもうあんな男好きじゃないし、もう関わる気なんてないし……!」
「なに言って……」





「もう……全部遅かったんだ……今更……っ」




 サヤカの瞳からは大量の涙が溢れていた。
 


 ……ッ! なんで、なんで泣いて……


「安心しなよ、もうあんた達に関わる気なんて一切ないから」
「わたしもあんたを許す気は一切ない」


 わたしの言葉にサヤカの視線が泳ぐ。





「……でも、次はちゃんと恋愛してね。間違い、繰り返さないように……手遅れにならないように」




「……分かってる、邪魔してごめん。ばいばい」



 涙を流しながらそう言ったサヤカは、心なしか笑顔にも見えた。