「ほら、早く車」


 そしてわたしは服を引っ張られ、引きずられていく。
 

「やめて……っ、お願い……」
「人の生活壊しといてそりゃねぇだろ」
「うっ……!」


 サングラス男はわたしの頬を強く殴った。
 痛い……もうたくさんだ。


 どうしてこんなことになったの。
 こんなはずじゃなかったのに……






「……離せ」




 背後から聞こえてきた声。
 振り返らなくてもすぐに分かった。



 その瞬間、涙が溢れてくるのが分かった。




 どうして……




「か、すみさ……ん?」




 強い衝撃音と共に、わたしの体は離され、隣に男が倒れた。


 見上げると、霞さんがいた。
 その目は見た事がないほど冷め切っていて、鋭く、殺すかのような勢いでサングラス男を睨みつけていた。



「殺される覚悟があって、このような事をしたのか?」
「お、俺が殺せるのか? どうせ名前だけのハッタリなんだろ?!」


 サングラス男は、震えながら後ずさる。
 その分だけ霞さんは距離を詰めた。





「勿論、殺せるが?」






 そして霞さんはあの時わたしに差し出したナイフを取り出す。
 



「霞さん……! だめです、そんな事……っ!!」


 わたしは痛みを抑えて立ち上がり、霞さんを背後から抱きしめて止めようとする。





「もしかして……お前、知らないのか? この霞って男が何者なのか」





 サングラス男の意味深な言葉に、わたしは思わず問いかけた。

「何者……?」

 ――そしてサングラス男は再び口を開いた。