「十環くん、どうしちゃったのかしら。
 少し体が熱い気もするわね。
 体温計と冷やすものを
 取りに行ってくるわね」


 そう言って
 十環先輩のお母さんは部屋を後にした。


 ベッドの十環先輩は
 相変わらず意識は戻らないまま。

 
 服が血で汚れているとかは無いけど
 どこか殴られでもしたんだろうか。


 十環先輩の透き通った白い肌に
 手のひらを乗せた時
 十環先輩は囁くような声を発した。


「……ん」


「え?
 十環先輩?
 わかりますか?」


 まだ瞳は閉じたまま。
 でも、確かに十環先輩の声が聞けた。


 良かった。
 意識はあるんだ。


 嬉しくなって十環先輩の左手を
 私は両手で包み込んだ。


 その時


「結愛……さん」


 一瞬、花がほころぶように
 微笑んだ十環先輩。


 その笑顔が
 私を拒絶するかのように微笑んだ
 コンビニの時の笑顔と違いすぎて
 胸が苦しくなる。


 結愛さんのことを思うと
 そんな風に優しい顔になるんだね。