「み・・三井先輩めっちゃ歌うまいですね!!!」


「こらっヨシオ!
私を差し置いてキョウコか!!」


「あ痛っ!」


“ありがとう”と言う前に、クルミちゃんが後輩君の頭をペチンと叩く。


「いやだってクルミ先輩が上手いのは知ってたけど、三井先輩の歌聞くの初めてですもん。」


「まぁそりゃ・・私なんかよりキョウコの方がめっちゃ上手いからねっ。

あ!キョウコ次キラキラ歌ってよ!」


「え!!!俺aikoめっちゃ好きです!」




“そんなことないよ”と訂正する前に、

クルミちゃんと後輩君が盛り上がって、次の私の曲を予約する。



「あ、じゃあさ、
3人で一緒に歌おうよ。

ヨシオ君も一緒にさ!」



毎月恒例のカラオケ大会。

なるべく・・
一人では歌わないようにしていた。

褒めてもらえるのはすごく嬉しいけど、だからって目立ちたくない。


鼻唄は良いけど、マイクを持って発声するのはなるべく避けたい。


断って雰囲気を悪くするのも、引き受けて喝采を浴びるのもイヤだった。


あの頃のように、メロディを聴けば頭の中に五線譜が浮かんでしまう。


五線譜が浮かべば、そこに各音符と休符とブレスが配置されてしまう。


音符たちが配置されれば、
それをなぞりながら没頭してしまう。


“光”と“希望”と“笑顔”しかなかったあの頃の気持ちを少しでも思い出したくないから、

今日もクルミちゃんと後輩君の後ろに隠れて、口元からマイクをそっと離した。