第8章





アイドル  三井キョウコ 
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「食べる?」


「いいんですか?」


「喉は大事にしなきゃダメだよ。
私はいっつも龍角散。」



“イチ”さんは、一番優しかった。


グループのセンターを務める・・イッセイがfi☆veの顔として指名したイチさんには、

高飛車なプライドも、イジワルな性格なんてこれっぽちも無くて、

いつもレッスンが終わると私を気遣って声をかけてくれた。





「私さ、中学から高校にかけて、
ずっとイジメに遭ってたんだ。」


「え・・・。」


「まぁ・・よくある・・
上履き隠されたりとか、

私だけ無視されたりとかベタなやつだったんだけどね。」


「そうだったんですか・・。」


「学校に私の居場所なんて無くて、家に帰って親にイジメの事がバレるのも怖くて、

1人カラオケで時間潰す毎日でさ。

・・・ハハッ、イジメてくる子には何も言い返せないくせに、

マイクを持って歌うと、
思いっきり声が出せたんだよね。」


「・・・・・・・・・・。」


「ウチらの世代じゃないんだけど、いっつも歌ってたのは渡辺美里のMy Revolution。

嫌な事も全部忘れて、明日からもまた頑張ろって奮い立たせてた。」


「・・・・・・・・。」


「大学に行ってイジメは無くなったけど、“ぼっち”はずっと“ぼっち”のままで・・。

・・ハハッ。一人で竹下通り歩いてたから、ゴリさんも声掛けやすかったのかな?

でもゴリさんからこの話を聞いた時、真っ先にMy Revolutionのサビが頭の中で鳴った。

“自分を変えるなら、ここしかない”って。」





昨日までの自分に別れを告げて、
“変えたい”と進み出した気持ち。


イチさんだけじゃない。

おっきくても、小さくても、

みんな心に何かを抱えていて、
ここに集まった。


「なんかさ・・初めて“友達”が出来たって気がした。

fi☆veのみんなとこうして出会って、

初めて“1人じゃない事”って良いものだったって知れたよ。」





・・・私だけじゃない・・・。

誰よりも優しくて、いつも私の事まで気に掛けてくれるイチさんと話していると、


心の奥底に隠していた“勇気”が・・
少しずつ顔を出し始めた気がした。