はやく俺のモノになればいいのに

「あ……」


こんにちは、とか。

濡れちゃいました、てへ、みたいな。


なんでもいいから声を発したいのに。 


みゆき先輩と挨拶したいのに。


全然、言葉が出てこない。


私のバカ〜!!


「笑いごとじゃないですよ。謝って下さい」


ハッ……!


先輩たちに実柑がガンを飛ばしている。


食堂でも上級生に言い返していたけれど、実柑って怖いものないのかな。


「モモがびしょ濡れです」
「すぐ乾くってー。怒んない怒んない」


そうだよ、実柑。

わたしなら大丈夫。


「その子モモちゃんって言うの? 濡れて瑞々(みずみず)しくなったね」


桃だけに瑞々しい……

誰が上手いこと言えと。


「てか。めっちゃ可愛いね、上野さん」


ジャージの刺繍を見て実柑を呼んだ、桜井先輩だ。


良かったじゃん、実柑。


まさかのこんなタイミングではあるけど、憧れの桜井先輩と話すきっかけが――


「それはどうも。うちはガッカリしてます。顔だけの男だったんですね、センパイ」