「びっくりしたよ。ウチ(営業部)来て、いきなり腕掴まれて、ひっぱり出されるなんて」

「すみません」

俺は頭を下げて謝った。

「別にいいけど。まさかおまえから誘われるなんてな。ユメかと思った」

イケメンに爽やかな笑顔を返される。

俺がいきなり食事を申し込んだのは、もちろん椎名さんだ。

俺よりも遥かに和奏さんのことをよく知ってることは前回の食事会で織り込み済みだ。

この人が、本当のことを教えてくれる保証はないけど、聞く価値は十分ある。と俺は考えた。

今夜はお礼に俺が持つつもりだから、リーズナブルなイタリアンレストランにした。

軽く乾杯して、適当に料理を選んで注文した。

「最近の若い子はこうゆう店が好みなんだ?いいね、イタリアンは一皿の量が多いから安くてたくさん食べられるし」


椎名さんは周りを見渡しながら、そんなことを言った。

「最近の若い子って、椎名さんだってまだ若いじゃないですか」

「若くねーだろ。もう来年30だよ。三十路(みそじ)」

確かにそうだけど、見た目も若くてカッコいいし、言わなきゃ絶対わからないと思うけど。

程なくして、サラダとカルパッチョが運ばれて来た。

自然な手つきでいつのまにか、椎名さんが取り分けていた。

「わーっ!ちょ、先輩なんだから、やめてくださいよ!」

思わず叫んじゃったよ。

「気にするなよ、俺は慣れてるし、この方が落ち着くから」

いつもは接待だからそうなんだろうけど、今は違います。
俺の立場がないじゃないですか!

言ってる間も手を動かして、あっという間にお皿にキレイに盛り付けられてしまった。

「うん、なかなか美味いね」

なんて、美味しそうに食べ始めた。

仕方ないので、礼を言って俺も食べ始める。
久しぶりにきたけど、相変わらず美味い店だった。