『んー? だーい丈夫 大丈夫。僕がしたくてしたことだから君は気にしないで』
『………ごめんね…ありがとう………』
心底申し訳なさそうにそう言う彼女は僕を見上げてニッコリ笑った。
電車内での記憶を思い出していた。
僕は何か言わなきゃと思って「ああ、君、どうしたの? 窓から屋上見てたらここにこの猫がいて…いつもいる君もいないし…」と言った。
…あ。これじゃいつも見てるみたいじゃないか。
そう思って僕は「気になって、来ちゃった☆」と誤魔化す(ごまかす)ように言った。
…って誤魔化しきれてない!
僕は彼女の気をそこから逸らす為に「知り合い?」と聞いた。
「あ…うん。その子…うちの子…」
「え?」
『うちの子』というのはどういう意味だろう。
もしかして、ペットということか?
「あ、うちの子って…自分の家の猫ってこと?」
「あ…うん」
僕の印象通りだった。
彼女はとても静かだ。
それとも、人と話すのが苦手なのか?
「僕、2組の山崎です。前、電車で会ったよね?」
自己紹介をした。
…少しでも僕についての情報を知ってほしかった。
彼女は僕に興味なんてないだろうから…。
「あっあのっ」
彼女は少し焦ったように声を出す。
彼女の声はとても綺麗(きれい)だ。
堪能していたかったが、また変なことを考え始めないうちに彼女の声に耳を傾けた(かたむけた)。
「あの時はありがとう…えと…あの…痴漢に遭ってた時……えと…」
やばい。可愛い…。
僕って実は変態だったんだなぁと思いながら「ああ、うん。大丈夫。あの人いつも屋上にいる人だって思ったら…あれ? よく見たら痴漢されてる?ってなってさ。たまたまだから気にしないで」と言う。
でも僕が助けることができて良かった。
他の男に助けられて、「あ…私この人のこと好きかも…」なんてことになったら僕の嫉妬が止まらない。
「あっ…ありがとう…」
「うん」
笑顔で応えると彼女はニッコリと笑う。
それを見て僕は決意を決めた。
というか、本当は君に「好きだ」と伝える為にここでこの猫と遊んで待っていたのだ。
「………」



