* * *

「あ」

その声はこぼれ落ちた声なのかもしれない。

だけど僕はその声ですぐに誰だかわかった。

「え?」

やっぱり…僕の好きな人だ。

ずっと前に暇だったから窓から屋上を見ていたらたまたま彼女を見つけた。

彼女は委員会で一緒だった人だったが、あんまり喋ってくれないタイプの人だったので静かであまり笑わないクールな印象があった。




だが窓を通して見た彼女は猫を見つめて愛しそうに楽しく笑っていた。

それを見たらなんだか目が離せなくて。

今思えばそれは一目惚れだったのかもしれない。

その日から毎日のように窓から彼女を見つけては見つめて。

そんな日々を送っていた僕だったが、ある日電車の中で彼女を見つけた。




『ーーあ。あの子。いつも窓から見てた子だ』

僕は思わずそう呟いていた。

僕はいつのまにか彼女に釘付けになっていた。

…って…、まるで変態みたいじゃないか僕…。

そう思っても何故か目が逸せなかった。

『あれ、あの人…』

彼女の知り合いかと思ったけど全然違った。

『あれって…』

 ーー痴漢…‼︎

僕は彼女のもとへ走り寄った。

『ちょっとあなた、何やってるんですか』

僕は大声で言う。




——『この人痴漢です…——‼︎』

その痴漢をしていた人物は次の駅で逃げるように降りていった。

だが。

『あ…ここで乗り換えしないと…間に合わない…』

その声は恐怖で震えていた。

そう。あの痴漢男と同じ駅で彼女は降りなければならなかったのだ。

『じゃあ、早く降りなきゃ』

彼女は動かなかった。いや、恐怖で動けなかったのかもしれない。

『無理…。怖い…』

僕は本能的に彼女の腕を引っ張って、そのまま一緒に駅へと降りた。

初めて触れた彼女の腕は細くて、本気で握ったら壊れてしまいそうな程だった。

『大丈夫。またこの駅で何かあったら僕が守るから』

『…』

彼女は僕を見上げて何も言わなかった。

だが電車内で震えていたはずの彼女の震えはいつのまにか止まっていた。

『…あの、この駅で降りる予定だったの…?』

彼女は自分の心配より先に僕の心配をした。

…そういえば、忘れていた。

『…あ。そういえば、ここじゃなかった(笑)』

『え…じゃあ、今すぐにでも…』