「俺達夫婦だけで農家をするのが厳しくなったら継いでもらうからそれまでは医者をしてても構わん。どうする?
自分の夢をとるのか、大事な柚子の願いを聞くのか」






柚子の父さんは意地悪く笑いながら、そう俺に問うてきた。



どうするか。



ここで継ぐと約束しても、医者にはなれる。



でも医者になってもいつかは農家になる時が来ることになるんだよな。



俺は医者になって沢山の人の命を、俺の命尽きるまで助けたかったがそれは叶わない。



でも、医者になる夢は叶えられる。





だったら俺の残りの夢は、璃苑に託してみてもいいのかもしれないな。



柚子と子供を守ると決めた
幸せにすると決めた


だったら、最後までそっちを選ぶのが正しい答えなんだろう。




俺は、本当は泣きたい気持ちを我慢して、しっかりと柚子の父さんの顔を見た。






「わかりました。
お2人が2人だけで農業を出来なくなった場合は俺が柚子と後を継ぎます」



「ほぉ」



「俺が今までの人生全てかけて来たと言っても過言ではない医者の夢を、今後は柚子や子供のために諦めて、農家になることを約束します。
なのでどうか結婚を認めてください。
お願いします」






これでいいんだ。きっと。




あもう口に出して約束したのだか後に引けないんだからもう考えるな。



そう自分に言い聞かせても、やっぱり今までの医者になると信じて疑わなかった勉強の思い出が蘇って泣きたくなった。





でも、俺の不注意できっと柚子の夢も壊してしまったのだから、俺だけが全て叶えられるわけがないんだ。





そんな俺の夢と引き換えに
柚子の父さんは、柚子と結婚することをやっと認めてくれたのだった。