すぐにそう返され、夕暮れの図書室での出来事を思い出す。もちろん、先生は嘘つきな人ではないと十分わかっているのに。


「信じられないんです。こんな私に好かれるような魅力があるとは思えなくて。先生、一緒に寝なくても平気そうだし……」


 数日前から気になっていたことをつい漏らしてしまったが、彼は「表情筋が死んでるからね」とさらりと返した。

 笑えるところなのにその余裕すらなく、呆然としたままの私の隣に彼がやってくる。ゆっくり腰を下ろし、熱い視線が絡ませられた。


「我慢してたよ、ずっと。君が心から俺を望むまではって」
「私はとっくに……っ」


〝先生が大好きで、正真正銘の夫婦になりたいです〟と伝えたいのに、やっぱりすんなりと言葉が出てこなくてもどかしくなる。

 それでも、彼は私の気持ちを察してくれたらしい。


「じゃあ、確かめていい?」


 髪に手を差し込まれ、彼の綺麗な顔が近づく。こんなに誰かと接近した経験などないが、これからどうされるのかくらいは予想できる。

 パニックに陥りそうになりつつも、とにかくぎゅっと目をつむった。