「明神先生、どうされました?」
「悪い、閉館後に」


 いつもの無表情でカウンターにやってきた彼は、本を返すでもなく、一枚の紙を私に差し出す。


「単刀直入に聞くけど、これを書いたのは浜菜さん?」


 キョトンとして受け取り、二つ折りにしたそれを開いた瞬間、衝撃が走った。

 見覚えがありすぎる便箋と、〝明神先生、結婚してください〟の文字。紛れもなく自分が書いたもので、私は目が飛び出そうなほど驚き、「ひぇっ!?」と変な声を上げた。

 一体全体、なにがどうなって先生がこれを持っているの!?


「なっ、なななんで、これを……!?」
「トキさんが倒れた日に、美來ちゃんが持ってきた。『イブちゃんからだよ』って」


 慌てふためく私に、先生は表情を変えずに告げた。それを聞き、一旦動きを止めて急いで記憶を遡らせる。

 そうだ、この手紙はメモ帳に挟んで、そのまま忘れていたのだった。確かそのメモ帳は、祖母が倒れる直前にポケットにしまおうとして……。

 ああ、そういえばあのあと、気がついたらカウンターに置いてあったんだっけ。ひどく動揺していたから記憶が曖昧だけど、私はメモ帳を落として、誰かがそれを拾ってくれていたのだろう。