しかし目標がすべて達成されたわけではないらしく、トキさんは俺にずいっと迫ってくる。


「長生きするつもりではいるけども、いつどうなってもおかしくないし悠長なことは言ってられないから、早くひ孫の顔を見せとくれよ、先生。なるはやで! 秒で頼むよ!」
「それはさすがに」


 ツッコまずにはいられなかった。もちろん俺も伊吹との子供は欲しいが、こればっかりは気合でなんとかなるものではない。

 俺の手を握って懇願するトキさんのそばに、今度は大地くんがやってきた。


「やだな俺、この歳で叔父さんになるの……。まあ、姉ちゃんの子ならめちゃくちゃ可愛がるけど」


 トキさんの肩を抱いて、俺からそっと引き離しながらぼやいている。相変わらず姉が大好きなようで、微笑ましくもあるが複雑な気分だ。

 そんな彼が意外にも興味を示したのが櫂だ。伊吹の姉弟だから中学も一緒なので、櫂の噂を知っていたらしい。

 大地くんはチャペルを出たところで気だるげに秋晴れの空を見上げている櫂に近づき、フレンドリーに話しかける。