ところが心穏やかな私に対し、揺れる前髪の下でこちらを見つめる久夜さんの瞳は、どことなく神妙なものになっている。


「伊吹……今、幸せか?」


 生温かい夕暮れの風に乗って、落ち着きのある声が届いた。

 彼がどうしてそんな質問をするのか、なんとなく察しがつく。だいぶストレスは取り除かれたはずなのに、声が戻らないから心配しているのだろう。

 私は十分幸せです。あなたと一緒にいられる夢みたいな日々が現実になっているんだもの。

 その想いが伝わることを願い、笑顔でしっかりと首を縦に振った。彼も「そうか」と頷くけれど、わずかに見せた笑みにはまだ覇気がない。

 久夜さんはきっと、医者であり、夫でありながらどうすることもできない自分に歯がゆさを感じているのだろう。そんな気持ちにさせてしまう私自身ももどかしい。