奇跡的な運命に感謝していると、誰かが近づいてくる気配がした。振り向けば、わずかに驚きを含ませて「伊吹」と呼ぶ大好きな人の姿を捉え、心臓がトクンと軽く弾む。

 白衣のポケットに手を入れて歩いてくる彼はいつでも素敵だけれど、今は十年前のシチュエーションと重なってなんだか胸がきゅっとなる。


「ここで会うとはね。俺もなんとなく来たくなったんだ」


 すごい、以心伝心というやつですか。それだけで嬉しくなって、ふにゃりと口元を緩ませた。

 隣にやってきた久夜さんは、なぜか私の頬に軽く手を添えて、診察するみたいな視線を向けてくる。ほどなくして、綺麗な顔に安堵が滲んだ。


「その様子だと、櫂と和解できたみたいだな」


 なにも言わなくてもわかっちゃうのもまたすごい。目をしばたたかせた私は、唇を弓なりにしてこくりと頷いた。

 一時は修復不可能かと危惧した私たち三人の関係が良好になりそうで、本当によかった。過去の傷もようやくかさぶたが綺麗に取れた気がする。