前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~

 俺たちの母親は、俺が八歳のときに父とのすれ違いから離婚し、しばらくして櫂を授かった。しかし相手の男性と再婚することはなく、シングルマザーとなった。

 櫂が小学四年生くらいまでは父もまだ再婚しておらず、俺たちも定期的に会って遊んでいた。それを許していた父は寛大だったなと思う。

 あの頃の櫂はやんちゃだったがよく笑う明るい子で、俺を〝ひさ〟と呼んで慕ってくれているのも嬉しかった。 

 ところが、俺の父が再婚し、櫂がお互いの親の事情を理解してきた頃から次第に疎遠になっていった。俺から会いに行っても追い返されるばかり。中学の頃が一番荒れていた印象だ。

 母親の事情で引っ越して一旦消息がわからなくなったものの、彼女が亡くなってから父の伝手で再び居場所が判明し、今に至る。

 しつこいと煙たがられているのは百も承知だが、どうしても放っておけないのだ。笑い合っていたあの頃にもう一度戻りたい、戻れるはずだと信じている自分がいる。

 だが、伊吹との間に起こったことの内容次第では、関係を修復できないかもしれない。

 ざわめく胸を宥め、ローテーブルにコーヒーを持ってきた櫂に話を切り出す。


「十日くらい前に、櫂と伊吹が会っているのを見たって人がいるらしいんだが」


 俺の向かいに片膝を立てて腰を下ろした彼は、俺を一瞥して小さく頷く。