窓から覗く夏空と日差しが眩しいリビングは、しんと静まり返っている。私の心と正反対のそこへのっそりと入ると、テーブルの上に置かれている紙切れに気づいた。

 メモ帳を一枚切り取ったそれには、久夜さんの字が綴られている。


〝調子はどう? 伊吹の笑顔が恋しい〟


 彼の優しい顔が思い浮かび、じわっと一気に文字がぼやけた。

 久夜さん……私、笑えそうにないよ。

 自信を砕かれて、私のせいで先輩との関係はこじれる一方で、さらに声まで失くしてしまった。妻としての役割をまともに果たせないのでは、そばにいる意味がないじゃない。

 あなたが大好きなのに、あなたのためになにもできない自分が嫌で、苦しくて仕方ないんです。

 その想いも、文字だけではきっとうまく伝えられない。これまで言葉を併用していたからなんとかなっていたんだ。

 声にして伝えられないことが、こんなにも苦痛だったなんて──。

 瞳いっぱいに溜まった涙が溢れ、ぽたりと落ちて彼の文字を濡らした。嗚咽さえもまともに発せず、それがまたひどく悲しかった。