むくりと上体を起こし、〝あ〟の発音を出そうと試みるも結果は同じ。

 なんで? どうして突然、声が出なくなったの──?

 喉を押さえて胸がざわめくのを感じていると、また苦しくなってきそうな気がしてひとまず身体を横たえる。

 過呼吸が怖いし、今夜はもう寝よう。喉の調子がおかしいのは過呼吸のせいという可能性もあるし、明日になれば治っているかもしれない。

 様々な不安を抱きながら、私は無理やり瞼を閉じた。



 翌朝、目が覚めたときにはすでに久夜さんの姿はなかった。時刻は八時半で、朝方まで寝つけなかったとはいえ朝食の用意もできなかった自分に落胆する。

 ベッドから下り、頭が冴えてくると重要なことを思い出した。

 そうだ、声……。ちゃんと戻っているだろうか。若干緊張してごくりと息を呑み、昨夜と同じく口を〝あ〟の形にして声を出してみる。

 ──しかし、治るどころか囁き声すらも出なくなっていた。事の重大さをようやく実感し、全身から血の気が引いていく。