前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~

「大丈夫だよ、伊吹。怖くない。俺がここにいる」


 安心感のある声で語りかけられ、私は必死に彼のシャツを掴んだ。彼は優しく私の背中をさすりながら、「ゆっくり息を吐いてみて」と指示する。

 最初は呼吸ができている感覚はなかったが、次第に息を吐き出せるようになっていた。胸の痛みや苦しさもすうっと退いていく。

 おそらく数分の出来事だったが、本当に死ぬかと思った。ようやく普通の状態に戻り、心から安堵する。

 久夜さんもホッとした様子で、私を抱いたまま控えめな笑みを浮かべた。


「落ち着いたな、よかった。一過性の過呼吸だから心配いらない」


 そうか、今のが過呼吸なのか。よく聞く症状だが、自分が体験したのは初めてだからすごくびっくりした。久夜さんが帰ってこなかったら、ますますパニックに陥っていたに違いない。

 彼を見上げ、感謝を込めて口を開く。

〝久夜さん、ありがとう〟そう言葉にするはずだった。なのに……

 声が、出ない?

 正確には、聞こえるのは内緒話をするときの囁きだけで、しっかりとした声を発せていないのだ。