前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~

「やめてください……!」


 手を振り払った直後、先輩が思いのほか悲しそうな顔をした。しかしそれは一瞬で、すぐに険しく歪む。

 そして、拒絶しても振りほどけないくらいの力でぐっと私の手首を握り、そばの裏路地に引っ張っていく。

 人通りもなく薄暗いそこの壁に背中と握られた手首を押しつけられ、「きゃっ」と小さな悲鳴が漏れた。

 壁に手をついて私を囲う彼から強い威圧感を与えられ、十年前の情景と重なった。再び恐怖に襲われ、呼吸さえもしづらくなる。

 彼は苛立ちと苦しさが交ざった面持ちで、それと同様の声を絞り出す。


「本当に嫌気が差すよ。こんなふうにお前に当たっちまう自分に」


 その言葉は少し意外なもので、私は怯えつつも視線を合わせない彼の瞳を見つめる。


「中学の頃はいつも無性にイラついてて、俺を前にすると常にオドオドしてる伊吹にも腹が立った。なのに……気がつけばずっとお前を見ていて、そんな自分が理解できなかった」


 ……私が気に食わなかったのに、ずっと見ていた? それって、いつの間にか好意に変わっていたと考えていいの?