前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~


 涙が落ち着いて病室をあとにしたのは午後六時頃。まだまだ空は明るくて、涼しさもあまり感じない。

 祖母のおかげでいくらかスッキリしたものの、北澤さんから受けたダメージが完全に消えることはなく、私はとぼとぼと帰り道を歩いていた。

 そのとき、前方から歩いてくるカジュアルな服装の男性に気づいて息を呑む。


「先輩……」


 また会ってしまった、重南先輩に。駅方面から来たところから察するに、これから夜間の勤務なのだろうか。

 彼も私に気づき、再びお互いに足を止めた。前回の気まずさも残っているし北澤さんに誤解されたこともあり、この状況から逃げ出したいのが本音だ。

 ところが、先輩はなぜか私の顔を怪訝そうに見つめてくる。


「……泣いたの?」


 図星を指され、はっとして顔を背けた。目が腫れているのに気づかれてしまったらしい。

 いたたまれないし深入りされたら困るので、私は否定も肯定もせず、そそくさと去るべく頭を下げる。


「すみません、今日は失礼します」
「待て、伊吹」


 先輩の横を通り過ぎる瞬間、腕を掴まれて全身の肌が粟立った。また誰かに見られていたら、という懸念もあって身体が勝手に動く。