『伊吹も熱い想いを込めた恋文、出したらどうだい? 先生に』
昼間、祖母に言われたことを蘇らせながら、私は自分の部屋のローテーブルに置いた便箋と向かい合っている。ペンを持った右手は、まだ一度も紙に下ろしていない。
あれからずっと、祖母に花嫁姿を見せてあげるにはどうしたらいいかと考えている。
男性が苦手な私は、結婚自体する気がない……というより、できないと思う。ただひとり、明神先生を除いて。
彼の気持ちは今は無視してしまうが、私が受け入れられる人、すべてをあげられる人がいるとすれば彼だけ。それならいっそ、玉砕覚悟で想いを伝えてみようか。
半ばヤケのようなひらめきが湧き、なんとなくペンを走らせてみる。
〝明神先生、私と結婚してください〟
ひとこと書いた途端、ものすごく恥ずかしくなって両手で顔を覆った。
いきなりプロポーズするとか、ないない……。逆の立場だったら絶対に引くもの。もし一ミクロンの可能性があったとしても、これで確実にゼロになるわ。
ひとり悶えていると、コンコンとノックの音がした。慌てて手紙を二つ折りにして、いつも持ち歩いているメモ帳に挟み、「はい」と返事をする。



