前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~

「明神先生に兄弟はいないと主人から聞いているわよ。よく堂々と嘘をつけるものね」
「嘘じゃありません! 久夜さんには──」


〝異父兄弟の弟さんがいる〟とは軽々しく言えず、口をつぐんだ。彼もよっぽど親しい人でなければ明かしていないだろうし、その事情を私が勝手に教えてはいけない。

 黙りこくる私に、北澤さんは冷たい視線を突き刺して問いかける。


「じゃあ弟さんが本当にいるとして、当然ご主人に会うという話はしてあるのよね? やましいことがひとつもないなら」


 ギクリとして身体が強張る。「それは……」とこぼしただけで続く言葉が出てこない。

 悪い行いはなにもしていないはずなのに、またなにも言えない自分にもどかしさと悔しさを抱いていると、彼女が不気味な笑みを浮かべる。


「隠し事はいけないわねぇ。そのお口はなんのためについているのかしら」


〝どうせついてても無駄な口なんだから〟

 昔、先輩に放たれたひとことがリンクして、心臓が氷漬けにされるかのような感覚を覚えた。

 北澤さんは軽蔑を露わにした目を私に向け、勝手な想像をつらつらと並べる。