そうして歩きだしたのだが、先輩も同じ方向についてくるのが気配でわかる。いたたまれなくてそうっと振り返れば、彼はぎゅっと眉間にシワを寄せる。
「別にストーカーしてるわけじゃねぇよ。駅に向かってるだけ」
「わ、わかってます!」
ですよね、私のマンションも駅方面だから同じなだけですよね! ただ、どうしても警戒心が消えないんですよ……。
心拍数を乱しつつ一定の距離を空けて歩いていたものの、混み合っている信号待ちの横断歩道で隣に並ぶのは避けられなかった。早く青に変われ、と内心祈っている。
ところが、気まずすぎる空気を破ったのは意外にも先輩のほうだった。
「驚いた。伊吹があいつと結婚してたとは」
ボソッと呟かれた本音で、少しだけ緊張の糸が緩む。そういえば、久夜さん以外に私を名前で呼ぶのは先輩だけだった。
「……私もです。まさか、久夜さんの弟さんが先輩だったなんて」
私もそう返しながら、中学時代を思い出してなんとなく切ない気持ちになった。
十年経った今でも傷跡は残っているけれど、もう痛くはない。これからまた彼と関わる運命なのだから、上手に付き合っていかなくては。
「別にストーカーしてるわけじゃねぇよ。駅に向かってるだけ」
「わ、わかってます!」
ですよね、私のマンションも駅方面だから同じなだけですよね! ただ、どうしても警戒心が消えないんですよ……。
心拍数を乱しつつ一定の距離を空けて歩いていたものの、混み合っている信号待ちの横断歩道で隣に並ぶのは避けられなかった。早く青に変われ、と内心祈っている。
ところが、気まずすぎる空気を破ったのは意外にも先輩のほうだった。
「驚いた。伊吹があいつと結婚してたとは」
ボソッと呟かれた本音で、少しだけ緊張の糸が緩む。そういえば、久夜さん以外に私を名前で呼ぶのは先輩だけだった。
「……私もです。まさか、久夜さんの弟さんが先輩だったなんて」
私もそう返しながら、中学時代を思い出してなんとなく切ない気持ちになった。
十年経った今でも傷跡は残っているけれど、もう痛くはない。これからまた彼と関わる運命なのだから、上手に付き合っていかなくては。